2026年10月1日、高市首相は日本成長戦略会議で、高性能AIの社会実装について「我が国の成長戦略実現に不可欠」と述べ、年末までに具体的な計画をまとめるよう関係閣僚に指示しました。 政府がまとめるのは、「信頼できるAI」で社会全体を動かすAXの具体像、AXに合わせた規制・制度改革の原則、そしてAIの社会実装を加速するアクションプランの3つです。内閣府
ここで気になる言葉があります。 「AX」です。 少し前まで、企業も政府も盛んに「DX」を掲げていました。 では、DXはもう終わって、これからはAXなのでしょうか。
AXとは何なのか
AXは、AI Transformation(AIトランスフォーメーション)の略です。 簡単にいえば、AIを導入するだけではなく、AIを前提として仕事や会社、さらには社会の仕組みそのものを変えていくことです。
これまでのDXは、デジタル技術を使って業務やビジネスを変えることが中心でした。 たとえば、紙の書類をデータ化する ➾ クラウドで情報を共有する ➾ オンラインで手続きを完結させるといった変化です。 AXでは、そこにAIが入ります。 蓄積されたデータをAIが分析する ➾ AIが提案する ➾ 人間の判断を支援する ➾ 一部の仕事ではAIエージェントが自律的に動くというところまで進んでいきます。
政府も2026年7月の段階で「日本AX」を掲げ、行政、産業、暮らし、危機管理などをAIを前提として作り替える方向を示していました。内閣府 つまり、単なる「AI導入キャンペーン」ではありません。
IT化→DX→AXと考えると分かりやすい
ここは3段階に分けると分かりやすくなります。
IT化 ・・・人が行っていた作業をコンピューターに置き換える
DX ・・・デジタル技術を使って業務の流れやビジネスそのものを変える
AX ・・・AIが存在することを前提に、業務や組織、サービスそのものを組み直す
ただし、実際の会社がこの順番できれいに進むとは限りません。
ここが今回の話の面白いところです。
DXが終わってからAXとは限らない
架空の3社で考えてみましょう。
A社は、まだ紙やFAXが多く残っている会社です。
本来ならデジタル化から始めそうですが、AI-OCRを導入して紙の書類を読み取り、そのデータをAIで処理する仕組みを導入しました。 この会社は、デジタル化とAXを同時に進めているとも考えられます。
B社は、すでにDXを進めてきた会社です。
顧客情報や売上データはクラウド上にあり、業務もかなりデジタル化されています。 そこへAIによる需要予測や問い合わせ対応、資料作成などを加える。 これは、DXで作ったデジタル基盤の上にAXを載せるパターンです。
C社は、自分たちはDXを進めていると思っている会社です。
ところが社員はすでに生成AIで文章を作り、会議を要約し、データを分析し、プログラムまで作っています。 名前はDXでも、やっていることの一部はすでにAXなのです。
つまり、DX ➾ 完了 ➾ AX開始と単純に進むわけではありません。
DXとAXは重なりながら進んでいくと考えた方が現実に近いでしょう。
実際に企業ではAXが始まっている
これは架空の話だけではありません。
日立製作所は、2023年12月に「Chief AI Transformation Officer」を新設しました。生成AIを単なる効率化ツールではなく、業務の生産性向上や新しい事業機会につなげる成長エンジンとして位置付けています。日立
さらに日立では、1000件以上の生成AI活用ユースケースを積み重ね、2025年には社内外のAXを推進する「GenAIアンバサダー」も設けています。日立
Gen-AX(ジェナックス)では、コンタクトセンターなどでAIが問い合わせに対応する仕組みを展開しています。 2025年には、AIが音声で顧客と対話するAIオペレーターの開発も発表しました。 Gen-AX株式会社
つまり、政府が2026年になって突然AXという新しい技術を発明したわけではありません。
企業ではすでに始まっていた変化を、政府が成長戦略として大きく位置付け始めたと考える方が分かりやすいでしょう。
AXという言葉は突然生まれたわけではない
AXという言葉そのものは、今回のニュースで初めて登場したものではありません。
先ほどの日立の例では、すでに2023年に「AI Transformation」という言葉が使われています。
政府も2026年7月には「信頼できるAI」で社会全体を駆動する「日本AX」を掲げていました。日立
そして9月には「AX社会実装担当」という担当まで新設されています。内閣府
10月1日の発表で一段階進んだのは、AXという言葉を使い始めたことではなく、具体像、規制・制度改革、アクションプランを年末までにまとめるよう指示したことです。内閣府
「AXという新しい言葉が登場した」というより、「これまで使われ始めていたAXを、本格的な政策に落とし込む段階に入った」というニュースなのです。
「言葉」が変わると社会の見方も変わる
実は最近、AIをめぐって言葉そのものを変えようとする動きがあります。
米国では2026年9月29日、トランプ大統領が大統領令を出し、連邦政府の文書などでは「Artificial Intelligence(AI)」に代えて「Super Intelligence(SI)」という名称を使う方針を示しました。The White House
ただし、これは日本のAXとは意味が違います。
AXはAIによって社会や企業をどう変革するかという考え方です。 一方、米国のSIはAIそのものの呼び方を変えようという動きです。 また「super intelligence」は従来、現在の一般的なAIとは異なる意味でも使われてきたため、この呼称には議論もあります。Axios
それでも共通していることがあります。 AIの進化によって、これまで使ってきた言葉だけでは変化を表現しにくくなっているということです。
AXは「次のDX」になるのか
DXという言葉も、最初から誰もが知っていたわけではありません。 ところが政府や企業が使い続けたことで、今では「DX推進」「DX人材」といった言葉を普通に目にするようになりました。
AXも同じ道をたどる可能性があります。 ただし、大切なのは新しい横文字を覚えることではありません。 今回の政府方針で注目したいのは、「デジタルを使う社会」から「AIが存在することを前提にした社会」へと発想が変わり始めていることです。
紙からデジタルへ。
デジタルからDXへ。
そして、DXからAXへ。
もっとも、DXが終わってからAXが始まるわけではありません。 デジタル化が遅れている企業がAIをきっかけに一気に変わることもあれば、DXを進めてきた企業がその基盤を使ってAXへ進むこともあります。
数年後、「AX」という言葉は「DX」と同じくらい当たり前になっているのでしょうか。
今回のニュースは、その変化の途中を私たちが見ているということなのかもしれません。


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