全国区になる前から笑っていた
今ではすっかり有名になった夢グループの通販番組。
石田社長と、夢グループ専属歌手・保科有里さんのやり取りは、もはや通販というより一つの芸になっています。
私は夢グループが今ほど全国区になる前から、深夜番組などで見かけては笑っていました。
もともとお笑いが好きで、バラエティ番組や賞レースもかなり見るほうです。
どちらかといえば、お笑いにはうるさいほうだと思います。
そのため、賞レースであまり面白くないネタを見ると、
「これなら夢グループの二人のほうが面白いよな」と思ってしまうことがあります。
では、なぜ芸人でもない二人の通販番組が、これほど面白く感じられるのでしょうか。
笑いは「予想とのズレ」から生まれる
心理学的に見ると、笑いが生まれる大きな要因の一つが、予想と現実のズレです。
夢グループの通販では、保科さんが、「社長〜、もう少し安くして〜」とお願いします。
普通なら社長は、「うーん、厳しいですね」と少しくらい考えるふりをするでしょう。
ところが、ほとんど間を置かずに新しい価格を即答します。 視聴者は無意識に「少しは悩むだろう」と予想しています。 その予想が一瞬で裏切られるため、返事の速さそのものがボケになるのです。
しかも値下げ率が規格外です。
「安くなる」という予想通りでも、「そこまで下がるのか」という部分では裏切られる。
このように、分かりやすい型の中に予想外の要素が入ることで、強く印象に残ります。
茶番だからこそ安心して見られる
はっきり言えば、この値下げ交渉は最初から決められた茶番です。
視聴者も、本当の交渉だとは思っていません。
それでも笑ってしまうのは、毎回同じ流れが繰り返されることで、安心感が生まれているからです。
「あ、また安くしてと言うぞ」
「社長はすぐ値下げするぞ」
と展開が読める。
そして予想どおりの場面が来ると、「来た来た、いつものやつだ」という楽しさが生まれます。
これは落語の決め台詞や、漫才のお約束にも近いものです。
吉本新喜劇も同じで、登場人物の決め台詞や定番の展開は、観客の多くがすでに知っています。
それでも、その場面が来ると笑ってしまいます。 「次に何が起きるか分かっているのに面白い」のは、予想が当たる安心感と、そのお約束をみんなで共有している一体感があるからです。
人は、完全に新しいものだけを面白いと感じるわけではありません。
知っている展開が期待どおりに繰り返されることにも、安心感や快感を覚えます。
夢グループの値下げは、すでに販売演出というより、視聴者も参加する一種の様式美になっています。
「専属歌手」という肩書きの違和感
もう一つ大きいのが、「夢グループ専属歌手」という保科さんの肩書きです。
普通の会社には、営業担当や広報担当はいても、専属歌手という立場はなかなかありません。
しかも通販番組で担当しているのは、歌ではなく社長に値下げをお願いする役です。
歌手なのに値下げ交渉担当。 このように、本来は別のカテゴリーに属するものが、当然のように組み合わされていると、人は強い違和感を覚えます。
会社、社長、商品説明という世界の中に、突然「専属歌手」という肩書きが入ってくる。
心理学的には、このカテゴリーのずれが、記憶に残りやすさや面白さにつながっていると考えられます。 しかも本人たちは、その状況をまったく不自然だと思っていません。
社長と専属歌手が並んで、商品の値段を相談している。
外から見ると完全にコントなのに、二人の中では普通の仕事として成立しています。
この本人たちの真剣さと、視聴者が感じる違和感との落差が、天然に近い笑いを生んでいます。
笑わせようとしていないから笑える
芸人のネタを見るとき、視聴者は最初から「笑わせてもらおう」と構えます。
特に賞レースでは、「このボケは面白いか」「オチは弱くないか」
と、審査するような目で見てしまいます。
ところが夢グループは、一応は通販番組です。
最初から笑いを期待していないところに、社長と専属歌手の不思議なやり取りが始まります。
しかも二人は大まじめです。
「ここで笑ってください」という圧がない。
このため視聴者の警戒心が低く、予想外の笑いが自然に入ってきます。
笑わせようとしている人より、笑わせるつもりのない人が結果的に面白い。
この偶然性が、作り込まれたネタとは違う魅力になっているのでしょう。
完璧でないことが親しみにつながる
夢グループの通販は、話し方や演技、間の取り方が洗練されすぎていません。
しかし、そのぎこちなさが人間味になります。
CDを「しーでー」、DVDを「でーぶいでー」と発音する石田社長の独特な話し方も、番組の面白さを引き立てています。本人は普通に商品を説明しているだけですが、その真剣さと独特な響きとのズレが、笑いにつながっています。
人は、完璧すぎるものには距離を感じます。
一方で、少し不器用だったり、癖があったりする相手には親しみを持ちやすくなります。
値下げ交渉のぎこちなさや、専属歌手が通販番組で値下げをお願いするという不思議な組み合わせも、二人を身近に感じさせ、独特の親しみやすさにつながっています。
一番売れているのは二人のキャラクター
夢グループの通販が面白いのは、単に茶番だからではありません。
・予想とのズレ
・予定調和による安心感
・肩書きの違和感
・本人たちの真剣さ
・完璧ではない親しみやすさ
こうした心理的な要素が、同時に働いています。
商品を売るための通販番組なのに、最も印象に残るのは商品ではなく、社長と専属歌手の二人です。
結局、夢グループが売っているのは、商品ではなく、この二人のキャラクターなのかもしれません。


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