「AIを使える人」が優秀な時代は終わる?|AI活用は個人から組織へ

AIと未来

2026年3月4日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)系の三菱UFJイノベーション・パートナーズが「MUIP Innovation Day 2026」を開催しました。

そこでMUFGグループCEOの亀澤宏規氏が示したのが、AIを単なる「ツール」ではなく、特定の役割を担う「ロール」として組織に取り込んでいくという考え方です。MUFGは「AIネイティブ企業」への変革を掲げています。 これまで企業のAI活用といえば、「社員一人ひとりがAIを使いこなす」という話が中心でした。 しかし今、その考え方が変わろうとしています。
「個人がAIを使う」から「組織そのものをAI前提で作る」へ。
今回は、企業のAI活用に起きているこの変化について考えてみます。

これまでは個人がAIを使っていた

ChatGPTなどの生成AIが登場してから、企業では「AIを使える人材を増やそう」と言われてきました。
例えば、営業部に10人の社員がいるとします。
これまでは、その10人がそれぞれAIを使います。
メールの文章を作る人もいれば、資料作成に使う人もいる。
情報収集に使う人もいるでしょう。
ところが、ここには問題があります。
 ☛ 毎日のようにAIを使う人
 ☛ ときどき使う人
 ☛ ほとんど使わない人
同じ会社にいても、使い方には大きな差が生まれます。
つまり、これまでのAI活用は、かなり「個人任せ」だったのです。

AIが格差を広げる可能性がある

亀澤氏は、この問題を非常に分かりやすい言葉で表現しています。
AIには全体の能力を底上げする「イコライザー(Equalizer)」の面がある一方、使いこなせる人とそうでない人との差を広げる「ディバイダー(Divider)」の面もあるというのです。

「イコライザー」とは、直訳すると「均等にするもの」という意味です。 AIを使うことで、これまで専門的な知識や技術が必要だった仕事でも、多くの人が一定レベルまでできるようになる。 つまり、人と人との能力差を小さくする力です。

反対に「ディバイダー」は、「分けるもの」「隔てるもの」という意味です。 AIを積極的に使う人はどんどん仕事が速くなり、使わない人との差が広がっていく。 つまり、AIが新たな格差を生み出す力でもあるわけです。

例えば、これまで2時間かかっていた資料作成を考えてみましょう。 AIを使えば30分で作れるようになるなら、それは多くの社員の仕事を助ける「イコライザー」になります。
しかし、一部の社員だけがAIを使って30分で終わらせ、ほかの社員が従来通り2時間かけているなら、今度は「ディバイダー」になります。

同じAIなのに、使い方によって「格差を縮める存在」にも「格差を広げる存在」にもなる。
そこで企業側の発想が変わってきます。 「社員にもっとAIを使わせよう」ではなく、「仕事そのものをAI前提に作り直そう」という考え方です。

AIワークフォースでは何が変わるのか

ここで出てくるのが「AIワークフォース」という考え方です。
これまでのAI活用は、人間が仕事をする → 必要なところでAIを使うという形でした。
これからは、仕事そのものを分解します。
例えば営業なら、
 ☛ 顧客情報を集める
 ☛ 過去の資料を探す
 ☛ データを分析する
 ☛ 提案書のたたき台を作る
 ☛ 顧客と話す
 ☛ 最終的な判断をする
こうして仕事を分けたうえで、「ここはAI」「ここは人間」と役割を決めるわけです。

つまり、「AIをどう使うか」から「AIに何を任せるか」への変化です。 MUFG自身も、日々の業務や意思決定にAIが組み込まれた状態を「AI Nativeな組織」と説明しています。

AIエージェントとは何が違うのか

ここで「それってAIエージェントのことでは?」と思うかもしれません。
少しカテゴリーが違います。
AIエージェントは、目的を与えると、ある程度自律的に仕事を進める技術や仕組みです。 一方、AIワークフォースという考え方で重要なのは、それらのAIを組織の戦力としてどう配置するかです。
「優秀なAIを作る」という技術の話だけではありません。
「AIと人間をどう組み合わせて仕事を作るのか」組織設計の話なのです。

すでに実際の仕事にも入り始めている

これは遠い未来の話でもありません。

2026年1月、三菱UFJ銀行は、企業向けのAI・業務効率化サービスを開発するIT企業「LayerX(レイヤーエックス)」のAIプラットフォーム「Ai Workforce」を、一部の部署で導入しました。 複雑な金融商品の業務について、提案から期中管理、償還まで幅広い工程の高度化・効率化を進めています。

MUFG全体でもAIの業務実装は進んでおり、2026年3月時点の資料では、AIエージェントの導入や、AIを「ロール」として活用する取り組みが示されています。 つまり、「AIワークフォース」は完成した姿ではありませんが、その方向への移行はすでに始まっているのです。

昔のシステム導入とよく似ている

こう考えると、実はそれほど不思議な話ではありません。
昔、企業にパソコンが普及し始めた頃を考えてみましょう。
最初は「パソコンを使える人」が重宝されました。
しかし今では、経理システム、顧客管理システム、勤怠システムなどが会社の仕事そのものに組み込まれています。

社員一人ひとりが、自分の判断でシステムを導入するわけではありません。 「会社が仕組みを用意し、社員はその仕組みの中で仕事をする」 AIも同じ段階へ進もうとしている、と考えると分かりやすいでしょう。

ではAIを使えなくてもいいのか

ここで一つ疑問が出てきます。
会社がAIを仕事の中に組み込んでくれるなら、社員はAIを使えなくてもいいのでしょうか。
そう単純ではありません。 MUFGも全社員のAIリテラシー向上を進めています。 2026年3月に行われたグループ横断のAI浸透イベントには延べ1万3,000人以上が参加しました。

ただ、求められる能力は少し変わっていくでしょう。
これまでは、「AIを使いこなせる人」が注目されていました。 これからは、「AIが働く環境で、人間として何ができる人なのか」が重要になってくるのではないでしょうか。 そして経営者や管理職には、さらに別の能力が必要になります。 AIと人間にどの仕事を任せるのかを設計する能力です。

AI活用は個人戦から組織戦へ

これまで企業では、「社員にAIを使ってもらおう」という取り組みが中心でした。 しかし、それだけでは使う人と使わない人に分かれてしまいます。 そこで次は、会社そのものがAIを前提に仕事を設計する。 これはAI活用が、「個人のスキル」から「組織の設計」へ移り始めた ということではないでしょうか。

「あなたはAIを使えますか?」これまで私たちは、そんな問いをしてきました。 しかし、これから企業に問われるのは、「あなたの会社は、AIを前提に仕事を作れていますか?」なのかもしれません。
そしてAIに仕事を任せるほど、もう一つの問いが重要になります。 「AIに任せたあと、人間は何をするのか」 AI時代の働き方を考えるうえで、本当に重要なのは、これからはこちらの問いになっていくのかもしれません。

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