無線で電力を送る「無線電力伝送」とは|ガンダムのデュートリオンビームは実現できるのか

ITリテラシー・スキル

スマートフォンを充電するとき、充電器の上に置くだけで電気を送れる「ワイヤレス充電」を使ったことがある方も多いでしょう。
ケーブルをつながなくても電力を送れる。
これは「無線電力伝送(Wireless Power Transfer:WPT)」と呼ばれる技術の一つです。
ただ、現在研究されている無線電力伝送は、スマートフォンのような数cm程度の距離だけではありません。

数km離れた場所へ、レーザーやマイクロ波を使って電力を送る。
そんな技術が、すでに実験段階まで進んでいます。
そう聞くと、あるアニメ作品の技術を思い出す方もいるかもしれません。
『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』に登場する「デュートリオンビーム送電システム」です。
離れた場所からビームを送り、モビルスーツへエネルギーを補給する。
一見すると完全なSFですが、現実の技術は意外なところまで近づいています。

そもそも無線電力伝送とは?

私たちは普段、電線を使って電気を運んでいます。
発電所で作られた電気も、送電線や配電線を通って家庭まで届きます。
ところが無線電力伝送では、途中に電線を使わず、空間を越えてエネルギーを届けます。
ここで誤解しやすいのですが、電気そのものをそのまま空中へ飛ばしているわけではありません。
長距離の無線電力伝送では、基本的に以下のような流れになります。

 電気
 ↓
 レーザーやマイクロ波などへ変換
 ↓
 空間を伝わる
 ↓
 受信装置で受け取る
 ↓
 再び電気へ変換

つまり、電気エネルギーを一度「電磁波」という別の形にして運んでいるのです。

なぜレーザーやマイクロ波で電力を送れるのか

レーザー光もマイクロ波も、実は同じ「電磁波」の仲間です。
電磁波というと、テレビやスマートフォンの通信をイメージするかもしれません。
しかし電磁波が運べるのは「情報」だけではありません。
エネルギーも運ぶことができます。 太陽の光を太陽電池に当てると電気が生まれることからも分かるように、光にはエネルギーがあります。
そこで、太陽から偶然届く光を使うのではなく、レーザーによって狙った場所へ光を送り、その光を受信側で電気へ変換すれば、離れた場所へ電力を届けることができます。 
JAXAでも、宇宙太陽光発電システムの研究として、マイクロ波やレーザーを使ってエネルギーを送る無線電力伝送技術が研究されています。

レーザーで8.6km先へ800W以上

では、現実にはどのくらい遠くまで電力を送れるのでしょうか。

2025年、米国国防高等研究計画局(DARPA)が興味深い実験結果を発表しました。
レーザーを使い、8.6km離れた場所へ800Wを超える電力を届けることに成功したのです。
800W以上の出力を30秒間維持し、実験期間全体では1MJを超えるエネルギーを伝送しました。
800Wといえば、大型機械を動かせるような電力ではありません。
しかし重要なのは、その出力よりも、「8.6km離れた場所へ、電線なしで電力を届けた」という点です。 これはもう、単なるスマートフォンのワイヤレス充電とはまったく違う世界です。

マイクロ波なら約1km先へ1.6kW

無線電力伝送に使われるのはレーザーだけではありません。 米海軍研究所(NRL)は、10GHzのマイクロ波を使った実験で、約1km離れた場所へ最大1.6kWの電力を送ることに成功しています。
マイクロ波の場合、受信側では「レクテナ」と呼ばれる装置を使います。 これは「アンテナ」と「整流回路」を組み合わせたもので、受け取ったマイクロ波を電気として利用できる形に変換します。

つまり現実世界ではすでに、レーザーでも、マイクロ波でも、離れた場所へ電力を送ることができるところまで来ているのです。

「デュートリオンビーム送電システム」とは

ここで『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』に登場する「デュートリオンビーム送電システム」を見てみましょう。 まず最初に言っておきますが、これは作品の中に登場する架空の技術です。
外部の動力源からの電力を指向性の高いビームに変換し、離れた機体へ送るという仕組みとして設定されています。 バンダイの公式資料でも、外部の動力炉から電力をビームへ変換して機体へ送る機構として説明されています。

つまり非常に簡単に表すと、以下のような仕組みです。

 電力
 ↓
 ビームへ変換
 ↓
 空間を飛ぶ
 ↓
 モビルスーツが受信
 ↓
 エネルギーとして利用

ここまで読んでくると、気付くことがあります。
現実の無線電力伝送と、基本的な考え方がかなり似ています。
もちろん「デュートリオンビーム」というものが現実に存在するわけではありません。
しかし、「電気を別のエネルギーの形に変え、ビームとして送り、離れた機械で再び電力として利用する」という基本的な発想そのものは、もはやSFだけのものではないのです。

デュートリオンビームはもう作れるのか?

では現在の技術を使えば、デュートリオンビーム送電システムを作れるのでしょうか。
答えは、「基本原理は可能。しかし性能はまだまったく足りない」となります。
現在の技術ですでにできていることがあります。
 ・離れた場所へ電線なしで電力を送ること。
 ・レーザーを使って数km先へ送ること。
 ・マイクロ波でkW級の電力を送ること。
 ・受信した電磁波を再び電気へ変換すること。
ここまでは、すでに実証されています。
問題は、送れる電力の大きさです。
800Wや1.6kWという出力は、人型の巨大機械を高速で動かしたり、飛行させたり、大出力の装置を使わせたりするには到底足りません。

「送れるかどうか」という第一段階はクリアしつつあります。
次の大きな課題は、「どれだけ大量のエネルギーを送れるか」なのです。

大電力を送れるだけでもダメ

仮に将来、現在とは比較にならないほど大きな電力を送れるようになったとしても、それだけではデュートリオンビームにはなりません。 いくつもの問題が残っています。

まずは送電効率です。 電気をレーザーやマイクロ波へ変換するときにも、受信したエネルギーを再び電気へ戻すときにも損失が発生します。

次に追尾技術です。 固定された受信装置なら狙いやすいですが、飛行中のドローンや高速で移動する機械へ電力を送り続けるなら、位置を検出しながらビームを正確に追従させなければなりません。

そして、高出力化するほど重要になるのが安全性です。 強力なレーザーやマイクロ波を遠距離へ送るのであれば、その間に人や航空機などが入った場合、瞬時に送電を止めるような仕組みも必要になります。

米海軍研究所の実験でも、安全基準を考慮した電力密度での送電が検討されています。
つまり、大電力化・高効率化・正確な追尾・安全制御これらを同時に実現しなければならないのです。

モビルスーツより先に使われる場所

では、この技術は何のために研究されているのでしょうか。
巨大ロボットを充電するためではありません。
たとえば、飛行中のドローンへ地上から電力を送り続けられれば、バッテリー交換や着陸の回数を減らせる可能性があります。 送電線を敷設することが難しい場所や、災害によって送電網が使えなくなった場所への電力供給にも応用できるかもしれません。

さらに大きな構想が宇宙太陽光発電です。
JAXAでは、宇宙空間で太陽エネルギーを集め、それをマイクロ波やレーザーに変換して地上へ送る「宇宙太陽光発電システム(SSPS)」について研究しています。

考えてみれば、これも、離れた場所からビームによってエネルギーを届けるという技術です。
デュートリオンビームとまったく同じものではありませんが、その根底にある発想はかなり近いと言えるでしょう。

SFだった発想に、現実が少しずつ近づいている

『ガンダムSEED DESTINY』で描かれた、離れた機体へビームでエネルギーを補給する「デュートリオンビーム送電システム」。
もちろん、現在このシステムそのものが実現しているわけではありません。
しかし現実ではすでに、
 ・レーザーで8.6km先へ800W以上
 ・マイクロ波で約1km先へ最大1.6kW
という無線電力伝送が実証されています。
つまり、「そんなことは物理的に不可能」という段階では、もうありません。

現在の課題は、「送れるかどうか」ではなく、「どれだけ大量に、効率よく、安全に、そして動いている相手へ送れるか」へ移りつつあります。
SF作品に登場した技術が、そのまま現実になるとは限りません。 しかしSFで描かれたアイデアを現実の技術と比べてみると、「実は、その入口にはもう立っている」ということがあります。
無線電力伝送は、まさにそんな技術の一つなのかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました