プレゼンテーションというと、多くの人は「どう話すか」を意識します。
声の大きさ、話すスピード、話の構成、スライドの見やすさ。もちろん、どれも大切です。
ただ、プレゼンテーションの授業をしていると、私はもう一つ気になることがあります。
それは、「聞き手の反応」です。
☛ 話している人を見ない。
☛ うなずかない。
☛ 問いかけにも反応しない。
☛ 面白い場面でも表情が変わらない。
こうした聞き方をする人は、意外と少なくありません。
しかし私は、プレゼンは話し手だけで作るものではないと思っています。
良いプレゼンには良い聞き手が必要
自分が人前で話している場面を想像してみてください。
目の前にいる人たちが、全員無表情で何の反応もしてくれなかったらどうでしょう。
「ちゃんと伝わっているのかな」「退屈しているのかな」「早く終わってほしいと思っているのかな」そんな不安を感じる人は多いと思います。 反対に、一人でもうなずいてくれる人がいる。 笑ってくれる人がいる。 問いかけに答えてくれる人がいる。 それだけで、話している側はずいぶん楽になります。 聞き手の反応は、話し手にとって大切なフィードバックなのです。
うなずくのは「面白いから」ではない
もちろん、すべての話が面白いとは限りません。 興味のない話もあるでしょうし、相手の意見にあまり共感できないこともあります。 だからといって、まったく反応しなくてもよいのでしょうか。
私はそうは思いません。 うなずく、相手を見る、必要ならメモを取る、問いかけられたら答える、笑えるところでは自然に笑う、こうした行動は、「あなたの意見に賛成しています」という意味ではありません。 「あなたの話をちゃんと聞いています」という意思表示です。 つまり、リアクションは話の内容に対する評価ではなく、話している相手に対する気遣いでもあります。
相手に伝わるのは心の中ではない
ここは、とても大切なポイントです。 例えば、二人の聞き手がいたとします。
☛ Aさんは、話の内容にとても共感していますが、無表情で、うなずきもせず無反応です。
☛ Bさんは、内容にはそれほど共感していませんが、話している人を見て、適度にうなずき、問いかけにはきちんと反応します。
話し手にとって、どちらが話しやすいでしょうか。
おそらくBさんです。 なぜなら、話し手にはAさんの心の中は見えないからです。 どれだけ「いい話だな」「よく分かる」と思っていても、それを外に出さなければ相手には伝わりません。
相手に伝わるのは、自分が思っていることではなく、外に出したことです。
これはプレゼンに限った話ではありません。
「感謝している」「心配している」「応援している」「ちゃんと話を聞いている」
こうした気持ちも、心の中にあるだけでは相手には分かりません。
コミュニケーションは、外に出して初めて相手に届くものなのだと思います。
うなずくことは同意することではない
中には、「賛成していないのに、うなずくのはおかしくないか」と思う人もいるかもしれません。
しかし、うなずくことには「賛成」という意味だけではありません。
「話を聞いています」「ここまでは理解しています」「続けてください」という意味でも使われます。 相手の意見に同意できなくても、相手の話をきちんと聞くことはできます。
「意見への賛同と、相手への敬意は別」です。
これは学校だけでなく、会社の会議や打ち合わせ、人間関係でも大切な考え方です。
聞き手の反応が話し手を変える
聞き手の反応は、話し手の話し方にも影響します。 話し手は、聞いている人の表情を見ながら話しています。 「ここは伝わっていそうだな」「少し分かりにくそうだから説明を足そう」「ここは反応がいいから、もう少し詳しく話そう」こうした調整をしながら話しています。
ところが、聞き手がまったく反応しなければ、その判断材料がなくなります。 結果として、話が一方通行になりやすくなります。 つまり、聞き手は単なる受け手ではありません。 聞き手もプレゼンを一緒に作っているのです。
AI時代だからこそ聞く力が大切になる
これからの時代、AIができることはますます増えていきます。
文章を作る、資料を作る、情報を整理する、要約する、アイデアを出す。 これまで人間が時間をかけていた作業の多くを、AIが助けてくれるようになります。 だからこそ私は、人間同士のコミュニケーションの価値は、むしろ高くなっていくのではないかと思っています。
☛ 相手の表情を見る。
☛ 相手が話しやすいように反応する。
☛ 場の雰囲気を感じ取る。
☛ 相手の気持ちを想像する。
☛ 必要なタイミングで声をかける。
こうしたことは、単なる知識や作業能力とは少し違います。 人と一緒に仕事をする力です。 AIを使えることが当たり前になっていくほど、人と関わる力が大切になる場面は増えていくでしょう。
リアクションは小さな優しさ
うなずくことに、お金はかかりません。 相手を見ることも、笑顔を見せることも、問いかけに答えることも、特別な資格は必要ありません。 それでも、その小さな反応によって、話している人は安心できます。 「ちゃんと聞いてもらえている」そう感じることができるからです。
私は、こうしたリアクションは一種の優しさだと思っています。
「あなたの話を聞いています」「あなたが話していることを受け取っています」そう相手に伝える、小さなサインです。 プレゼンでは、話す力が大切です。 でも、それと同じくらい、聞く力も大切です。 そしてAI時代だからこそ、うなずく、反応する、相手を見るといった、人と人との小さなコミュニケーションは、これまで以上に大切だと思います。


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