ある番組で、興味深いエピソードが紹介されていました。
新入社員に仕事を任せたところ、その社員はAIを使って成果物を作成したそうです。 ところが、出来上がったものには間違いがありました。 先輩社員がその間違いを指摘したのですが、新入社員はうまく対応することができなかったといいます。
なぜでしょうか。 その社員は、これまでAIに仕事を任せ、出てきたものを「正しい答え」として受け取る使い方をしてきたため、どこが間違っているのか、なぜ間違っているのか、どう直せばよいのかを自分で判断できなかったのです。
その様子を危険だと感じた先輩社員は、いったんその社員に「AI禁止令」を出したそうです。
この話は、これからのAI時代を考えるうえで、とても象徴的な問題を含んでいるように思います。
若いうちからAIに触れること自体は悪くない
今の学生は、社会に出る前から生成AIに触れることができます。 分からないことを質問したり、文章をまとめてもらったり、アイデアを考えたり、プログラムを書いてもらったりと、さまざまな場面でAIを使えます。 これは本来、とても良いことです。 これから仕事をするうえでAIを使えることは、大きな強みになるでしょう。
問題なのは、AIを使うことそのものではありません。AIをどのような道具だと認識するかです。
「便利な道具」が「正解を出す道具」になってしまう
生成AIを使うと、質問すればすぐに答えが返ってきます。
文章もきれいで、自分では思いつかなかったアイデアも提案してくれます。
こうした体験を繰り返していると、「AIは便利だ」という認識が、「AIは自分より賢い」、さらに「AIが出した答えなら正しい」へと変わってしまうことがあります。 しかし、生成AIは必ず正しい答えを出すわけではありません。 間違った内容でも、非常にもっともらしく説明することがあります。
つまり、AIは便利な道具ではあっても、完璧な正解を出す道具ではないということです。
本当に危険なのはAIが間違えることではない
AIが間違えること自体は、それほど不思議なことではありません。 人間だって間違えます。
本当に危険なのは、AIが間違ったときに、それを使っている人間が気づけないことです。
仕事では、「なぜこの数字なのか」「この情報の根拠は何か」「ここが間違っているけれど、どう直すのか」と確認されます。
ところが、最初から最後までAIに任せていると、成果物は完成していても、その中身を本人が理解していないという状態が起こります。 AIによって、「作れること」と「理解していること」が別のものになってきたのです。
AI時代だからこそ基礎知識が必要になる
AIがこれだけ優秀なら、「細かい知識は覚えなくてもよいのでは」と考える人もいるかもしれません。
しかし、私はむしろ逆だと思います。
AIの答えを判断するには、その分野について最低限の基礎知識が必要です。
Excelなら、関数や計算の基本を知っているからこそ、AIが作った式がおかしいことに気づけます。
プログラミングなら、変数や条件分岐の仕組みを理解しているからこそ、AIが生成したコードの問題を見つけられます。
基礎知識とは、自分ですべてを作業するためだけに必要なものではありません。
AIが出した答えを評価するためにも必要なものなのです。
AI禁止令は正しかったのか
今回の「AI禁止令」は、一見すると時代に逆行しているようにも見えます。
ただ、一時的な措置であれば意味はあると思います。
何も分からない状態でAIを使ってしまうと、AIの答えを評価できません。
まずは自分で考え、自分で調べ、自分なりの答えを出す経験が必要です。
そのうえでAIを使えば、AIは非常に強力な道具になります。
大切なのは、AIを禁止することではなく、AIを使う順番を身につけることなのではないでしょうか。
学校でも「AIの使い方」だけでは足りない
これから学校でも、「ChatGPTの使い方」や「良いプロンプトの書き方」といったAI活用の授業は増えていくでしょう。 もちろん、それは必要です。
しかし同時に、AIは間違えることがあること、情報の根拠を確認すること、自分の知識と照らし合わせることも教えなければなりません。
つまり必要なのは、AIを使う教育とAIを疑う教育の両方です。
私たちはどう使えばいいのか
AIは、何でも正解を教えてくれる魔法の道具ではありません。 しかし、正しく使えば、非常に強力な仕事の道具になります。 だからこそ、まず自分で考え、AIに助けてもらい、その答えを自分で確認する。 間違っていれば修正する。 この流れを身につけることが大切です。
社会に出る前からAIに触れられることは、とても良いことだと思います。
ただし、その段階で「AIは完璧な答えを出してくれるもの」と思い込んでしまってはいけません。
これから求められるのは、単に「AIを使える人」ではありません。
AIを使いながら、自分でも判断できる人。
AI時代に必要なのは、AIを信じる力ではなく、AIを使いながら、必要なときには疑える力なのです。



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