以前の記事で、
「AIに任せすぎると、自分で考える機会が減るかもしれない」
「AIなしでは、以前より時間がかかる可能性もある」
という話をしてきました。
すると、こんな意見もあるかもしれません。
「それなら、ずっとAIを使えばいいのでは?」
確かに、その考え方には一理あります。
電卓も、カーナビも、検索エンジンも、今では日常生活に欠かせません。
AIも同じように、ずっと使い続ければ問題ないようにも見えます。
でも、AIの場合は少し事情が違います。
今回は、「ずっとAIに頼ればいい」という考え方にも、なぜ危険があるのかを考えてみます。
AIは「必ず正しい道具」ではない
まず大きな違いは、AIは必ず正しいとは限らないことです。
電卓なら、正しく入力すれば計算結果は安定しています。
しかし生成AIは、もっともらしい文章の中に間違いを混ぜることがあります。
事実と違う説明をしたり、存在しない情報を作ったりすることもあります。
こうした現象は、一般にハルシネーションと呼ばれます。
少し難しい言葉ですが、AIが、正しそうに見える誤った情報を作ってしまうことです。
だからAIを使うときには、「本当に合っているか」と人間が確認する必要があります。
依存するほど「確認する力」が必要になる

ここで少し変なことが起こります。
AIをたくさん使うほど、AIの答えを確認する機会も増えます。
つまり、AIに依存するほど、AIの間違いを見抜く力が必要になるわけです。
ところが、その判断する作業までAIに任せ続けると、人間側は自分で考える機会を失います。
すると、AIを安全に使うために必要な力を、AIを使いすぎることで弱めてしまうという矛盾が起こります。
たとえばメールでも、「この返信で本当に大丈夫か」「相手の質問に答えているか」「こちらに不利な約束をしていないか」という判断は、人間側に必要です。
でも、その判断をする経験まで減ってしまえば、最後の確認が形だけになる可能性があります。
AIが使えない日は本当に来ないのか
「ずっと使えばいい」という考え方には、もう一つ問題があります。
AIは、いつでも必ず使えるとは限りません。
ネットワーク障害・サービス停止・利用料金の変更・会社の利用ルール変更・機密情報を扱うためAIが使えない場面、こうした状況は、普通に起こり得ます。
もし、「AIがないと仕事の進め方が分からない」という状態になっていたらどうでしょう。
これは単に便利な道具を使っている状態ではありません。
仕事の一部を、外部サービスに預けている状態に近くなります。
便利さが大きいほど、その依存も大きくなります。
新人が最初からAIを使う問題
もう一つ、大きな問題があります。
それが新人教育です。
ベテランがAIを使う場合、自分で何度も仕事を経験したうえでAIを使っています。
だから、「この文章はおかしい」「この対応ではまずい」と判断できます。
では、最初からAIを使う新人はどうでしょう。
自分でメールを書く、失敗する、上司に直される、相手の反応を見る、こうした経験をほとんどしないまま、AIが作った文章だけを使い続けるかもしれません。
すると、仕事はできているように見えるけれど、本人の中に経験がたまっていないということが起こる可能性があります。
これは個人だけの問題ではありません。 組織全体にも関係します。
会社の「知識」が外に出ていく可能性
もし会社の中で、「分からなければ全部AIに聞く」という働き方が当たり前になったらどうなるでしょうか。
本来なら、先輩から後輩へ、上司から部下へ、仕事の中で受け継がれていた知識や考え方が、少しずつ人の中に残らなくなるかもしれません。
すると将来、AIは知っている。でも社員は知らないという状態になる可能性があります。
これは、組織の知識が外部に依存している状態です。
AIが使える間は問題ありません。
しかし、何かあったときに、一気に弱さが表に出ます。
「便利だから全部任せる」は短期的には正しい
ここまで聞くと、「AIを使わないほうがいいのか」と思うかもしれません。
そうではありません。 AIは便利です。
むしろ、使わないほうが非効率な仕事も増えていくでしょう。
ただし、短期的に速いことと、長期的に強いことは別です。
今日の仕事だけを考えれば、全部AIに任せるほうが速い。
でも、5年後、10年後に、「自分では何も判断できない」「AIがないと仕事が進まない」となってしまえば、別の問題が出てきます。
だから必要なのは、AIを避けることではありません。
依存しすぎない使い方を考えることです。
私たちはどう使えばいいのか
では、どうすればよいのでしょうか。
一つは、最後の判断を人間が持つことです。
・AIに案を出してもらう。
・AIに文章を作ってもらう。
・AIに整理してもらう。
そこまでは問題ありません。
ただし、「これで進める」と決めるのは人間です。
もう一つは、自分で考える仕事を完全になくさないこと。
・ときどきAIなしで考える。
・簡単な仕事は自分でやる。
・AIの答えを見る前に、自分の考えを一度出す。
こうした習慣を残しておくことが大切です。
そして、新人教育では特に、AIを使う前に、まず自分で考える経験を作ることが必要になるでしょう。
AIは、経験の代わりにはなりません。
まとめ
「AIに依存して能力が落ちるなら、ずっとAIを使えばいい」
この考え方は、一見すると合理的です。
しかし、AIには間違いがあります。
使えない場面もあります。
そして、AIを安全に使うためには、人間側の判断力が必要です。
ところが、その判断力までAIに任せ続けると、確認する力そのものが弱くなる可能性があります。
さらに、新人が経験を積めなくなったり、会社の知識が外部に依存したりする問題もあります。
だから大切なのは、
AIを使わないことではありません。
AIがなくても考えられる自分を残したまま、AIを使うことです。
AI時代に本当に強い人は、AIなしで全部やる人でも、AIに全部任せる人でもありません。
AIを使いながらも、最後は自分で判断できる人。
これからは、そんな力がますます大切になっていくのではないでしょうか。


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