― フィクション判定では解決しない、ルール設計と運用のズレ ―
生成AIは、私たちの仕事や学びを大きく変えつつあります。
一方で、「それは少し行き過ぎでは?」と感じる場面も、少しずつ増えてきました。
今回話題になった出来事も、その一つです。
今回、何が起きたのか
今回話題になったのは、
創作・調査目的で生成AIを利用していた、Dr.STONEの科学監修を務めるくられ氏が、AI側の判断によって利用を制限された
という出来事です。
危険な行為をしようとしていたわけでも、
ルールを破ろうとしていたわけでもありません。
それにもかかわらず、生成AIはその内容を
「悪用される可能性がある」
と判断し、利用を制限しました。
なぜこの出来事が注目されたのか
この出来事が注目された理由は、
くられ氏が関わっていた作品の性質にあります。
Dr.STONEは、
「科学の力で文明を一から作り直す」
というコンセプトを持つ作品です。
作中では、
- 道具や装置がどのような原理で成り立っているのか
- 化学反応や物理法則がなぜ起きるのか
- 「できる」だけでなく「なぜできるのか」
といった点が、フィクションでありながら
現実の科学知識をベースに丁寧に描かれています。
筆者自身もこの作品の大ファンで、
毎回「次はどんな科学が出てくるのだろう」と楽しみに読んできました。
科学を正しく、しかも面白く伝えようとする姿勢が、一貫して感じられる作品です。
だからこそ、この作品には科学監修が入り、
- 現実の科学として成立しているか
- 読者に誤解を与えないか
といった点が、慎重にチェックされています。
まず強調しておきたいこと
今回の件について、最初にはっきりさせておきたい点があります。
この出来事は、
- 危険な情報を広めようとした
- グレーな使い方を狙った
- ルールをかいくぐろうとした
といった話では ありません。
むしろ、
- 創作のため
- 科学的に正しい表現を担保するため
- 読者に誤解を与えないため
という、非常に誠実な目的での利用でした。
むしろ評価されるべき、くられ氏の判断
この出来事の中で、特に印象的だったのは、
その後の くられ氏自身の判断 です。
生成AIの運営側からは、
「特例として利用を認める」
という提案があったとされています。
しかし、くられ氏はそれを
「公平性に欠ける」
という理由で断ったと語っています。
自分だけが特別扱いされるのではなく、
問題は個人ではなく、仕組みそのものにある。
この判断は、
科学を正しく伝える立場としても、
社会全体を見据えた姿勢としても、
非常に筋の通ったものだと感じました。
よくある誤解
「フィクションだと分かればよかったのでは?」
この話を聞いて、
多くの人がまず思うのは、
「フィクション目的だと分かれば、問題なかったのでは?」
という疑問でしょう。
しかし、ここにこそ本質的な問題があります。
「フィクションです」は、本当に安全な線引きか
もし生成AIが、
「フィクション目的ならOK」
という基準を強めてしまったら、どうなるでしょうか。
悪用を考えている人が、
「これは小説の設定です」
「創作のための質問です」
と言えば、そのまま通ってしまう可能性があります。
つまり、
- 正当な創作を守るための仕組みが
- 悪意ある利用者にとっての“抜け道”になる
という矛盾が生まれます。
この点を考えると、
フィクションかどうかを判断軸にすること自体が、現実的ではない
ことが分かります。
AIが見ているのは「意図」ではなく「転用可能性」
生成AIは、人間の意図を正確に理解することができません。
そのため、判断はどうしても機械的になります。
AIが見ているのは、主に次の点です。
- その情報は、そのまま再現できてしまうか
- 文脈を外しても使えてしまうか
- 悪用された場合、被害が大きく広がる可能性があるか
重要なのは、
「誰が使うか」ではなく
「どう使えてしまうか」
で判断している点です。
だからこそ、
正しい利用であっても、一定の領域では制限がかかります。
完璧な判断ができない以上、線引きはどうなるのか
生成AIが
「これは本当に安全な目的か」
「これは本当に正当な利用か」
を完璧に見抜くことはできません。
そのため設計上は、
- 一部の正当な利用が制限される可能性を受け入れても
- 社会全体へのリスクが大きい情報は止める
という判断が取られます。
今回の件は、
誰かが間違えた話ではありません。
ルール設計と運用のズレが、たまたま表に出た出来事なのです。
次に考えるべきこと
では、人間はこの生成AIとどう付き合うべきなのでしょうか。
AIに任せてよい判断と、そうでない判断はどこにあるのでしょうか。
次の記事では、
「人間側の立ち位置」に焦点を当てて、
この問題をもう一段深く考えていきます。



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